今回は『2000年前からローマの哲人は知っていた 怒らない方法』をご紹介します。
本書はセネカ (Seneca) の「怒りについて」をバード大学の古典学講座教授、ジェイムズ・ロム (James Romm) が編集・補足解説したものです。
セネカって誰?
と思った方も多いかと思いますが、生きた時代は2000年前の古代ローマ。
政治家・哲学研究家として活躍し、晩年は暴君として知られる皇帝ネロの教育係を務めた人物です。
「怒りについて」は、多くの権力者の怒りに翻弄されならが生きたセネカが、
- 怒りとはどんなものか?
- 怒りそのものを根本的になくしてしまう考え方
- 怒りを感じた時の対処法
などを記した短いエッセーをまとめたものになります。
「古代ローマの哲学研究家が書いた本」と聞くと、少しとっつきにくいですが、現代の私たちにもイメージしやすい例え話も多く、とても読みやすいです。
理解が難しいところは編者が補足説明してくれます。
今回は、読んだらすぐにでも実践できる「怒りの対処法」に重点を置いてご紹介していきたいと思います。
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怒りがどんなに恐ろしいか
セネカは多くの権力者の「怒り」に振り回されながら生きた人物です。
優秀すぎるあまりに嫉妬され殺されかけたり、嫌われて島流しに合ったり、最終的には皇帝ネロから自害を命じられて命を落とすことになります。
そんなセネカだからこそ「怒り」という感情の持つ恐ろしさや浅ましさを誰よりも分かっていたのだと思います。
作品の中でも手を変え、品を変え、繰り返しそのことを訴えていきます。
怒りは人の感情のなかで、最も醜く、最も凶暴なものだ。
賢人のなかには、怒りを「短時間の狂気」と呼んだ人もいた。 狂気にとらわれた人は、狂気を抑制することができない。礼儀を忘れ、友情もどうでもよくなり、始めてしまったことを意地でも終わらせずにはいられなくなる。
怒りを抱いた結果、それがもたらす害がどれほど大きいものかを知りたいという人がいるなら、わたしは次のように伝えたい。「いかなる災厄であっても、怒りほどひどい損害を人類に与えたものはない」
セネカ著/ジェイムズ・ロム編/船山むつみ訳「2000年前からローマの哲人は知っていた 怒らない方法」文響社(2020)
第1巻『「怒り」とは何か』では、怒りがどれほどのパワーを持った感情なのか記したエッセーが続きます。
その上で第2巻「怒らない方法」、第3巻「怒りをコントロールする」で怒りを抑えるための方法を説いていきます。
それはあなたが怒るべき問題か
わたしたちは“怒りの始まり”の原因と戦わなくてはならない。それはすなわち「不当な扱いを受けた」という感覚だ。だが、この感覚自体を信じてはならないのだ。
最も激しい憤りは、次のような考え方から生じる。「自分はまったく悪くないのに」「わたしは何もしていないのに」という考えた方だ。しかし、それは違う。あなたは自分に罪があることを認めていないだけだ。 私たちは忠告や罰を受ければすぐに憤るが、実はそれこそが間違いであり、自分の過ちにさらに散漫さと図々しさを重ねているのだ。
セネカ著/ジェイムズ・ロム編/船山むつみ訳「2000年前からローマの哲人は知っていた 怒らない方法」文響社(2020)
セネカ曰く、私たちは自己愛が非常に強いので、無意識レベルで「自分はあらゆる害から守られて安全であるべきだ」と思っているのだそうです。
しかし、それが揺らぐと「不当な扱いを受けた」と怒り出す。
自分が非難されると、瞬間的に「自分が正しく相手が間違っている」と思ってしまう。
人のこのような性質を理解しておくことは、怒りを抑える上での第一歩といえそうです。
怒りを抑える実践的な対処法 5選
このように、怒りを抑えるための考え方にも納得させられるのですが、現代の私たちにも真似できる怒りの対処法について書かれているのがありがたい。
今回は特に私が参考になったものを5つ厳選してご紹介します。
「重すぎる荷物」を背負わない
(前略)…公的なことでも、私的なことでも、多すぎる任務や、自分の能力を超えた任務を引き受けなければ、平穏な気持ちでいられる、と。
何かをしようと計画するときは、自分の力を測り、自分がやろうとしていることを測り、自分がしている準備を測ることだ。 任務を完了できず、後悔するはめになったら、あなたはきっと怒り始めるはずだ。
セネカ著/ジェイムズ・ロム編/船山むつみ訳「2000年前からローマの哲人は知っていた 怒らない方法」文響社(2020)
怒らないために「力量を大きく超える仕事を引き受けるな」というのはちょっと意外な指摘だと思いました。
しかし、自分は頑張っているのに成果がいまいちだったり、思うように進まなかったりすると、どうしても他の誰かや環境のせいにして、マイナス感情を貯め込みがちです。
こういうことを避けなさいと言っているのだと解釈しました。
「誰と一緒に過ごすか」が大事
一緒に過ごす友人は、穏やかで、楽天的な人たちがいい。心配症だったり、いつも落ち込んでいたりしない人たちだ。
人がよりよりよく生きるためには、穏やかな人たちに囲まれてよい手本を見ながら暮らすだけでなく、そもそも「怒る理由」に出くわさないようにするのがいい。そうすれば、自分の悪徳が大きくなることもないからだ。 そのためには、自分の怒りをかき立てるだろうとわかり切っている人たちを、すべて避けるに越したことはない。
セネカ著/ジェイムズ・ロム編/船山むつみ訳「2000年前からローマの哲人は知っていた 怒らない方法」文響社(2020)
『人との関わり方を見直し、一緒に過ごす人を厳選しなさい』ということですね。
自分がイライラする理由をすべて外的要因にするのは良くないですが、
不躾な態度を取ってくる人、
いつも仏頂面でイライラオーラをまき散らしている人、
ネガティブなことばかりを言ってくる人
など、近くにいるだけで “怒りの種” になる人って確かにいます。
どうしても関係を断ち切れない場合もあると思いますが、できる限り関わる機会を少なくするといった工夫はできそうです。
「疲労」が怒りを呼び起こす
また、肉体の疲労には用心しなければならない。 疲労は、わたしたちのなかにあるやさしく穏やかなものをすり減らし、とげとげしい部分を呼び起こすからだ。 同じ理由で、空腹と渇きも避けたほうがよい。
セネカ著/ジェイムズ・ロム編/船山むつみ訳「2000年前からローマの哲人は知っていた 怒らない方法」文響社(2020)
哲学 (思想) を扱った本で、疲労や、空腹、喉の渇きなど身体的なことについて注意してくる点はけっこう珍しいのではないかと思います。
でも、いくら理性で「怒らないように」と思っていても、極端に疲れていたり、お腹が空いていたり、身体のどこかがひどく痛むなど、身体のコンディションが良くないときには、やはりイライラしてしまいがちです。
指摘されてみれば当たり前だけれど、意外と盲点になっているかもしれません。
怒りを抑えるベストタイミング
だから、怒りという悪徳の最初の兆候を感じたら、その時点で即座に自分を抑えるのが最善だ。…(中略)… 誰でも、感情が湧き上ってくるのは、簡単に感知できるはずだ。
時間を置こう。1日たてば、真実がわかるだろう。
セネカ著/ジェイムズ・ロム編/船山むつみ訳「2000年前からローマの哲人は知っていた 怒らない方法」文響社(2020)
「イラッ」ときても、数秒間グッと我慢すれば、その後は段々と怒りが収まってくるというのは誰しも経験があるのではないでしょうか。
一度冷静になれば、自分が怒っていた事柄に対して
「まぁ、こういうこともあるよな」「相手にも事情があったのかも」
など、別の視点から捉えることもできるようになります。
怒りの応酬になってしまう前に、感情が湧きあがってきた時点でコントロールすることが肝心です。
自分が「何」にイライラするのかを知っておく
自分の病気を知り、それが悪化する前に抑えることは、わたしたちの誰にとっても有益だ。だから、自分を最もイライラさせるものは何か、考えておく必要がある。
……つまり、わたしたちの誰もが同じ理由で傷つくわけではないのだ。 自分の最も傷つきやすいところはどこか知っておこう。
セネカ著/ジェイムズ・ロム編/船山むつみ訳「2000年前からローマの哲人は知っていた 怒らない方法」文響社(2020)
言われてみればその通りですが、以前の私にはそういった視点はありませんでした。
子育ての最中で日々イライラしている自分を変えたいと悩んでいた時にこの一節に出会い
「私は、いったい何にイライラしているのだろう?」
と考えて行動を修正していった結果、徐々に穏やかに生活できるようになった実体験もあるので、とても感謝しています。
まとめ
この作品を読んでいると、日常生活の中で自分がどれだけ「怒り」に囚われているか、
そして、それがどれだけ「ばかげたこと」であるかに気づかされます。
自分の思い通りにはいかない世の中。
気持がささくれ立ってしまった時に、適当にページをめくって繰り返し読んでいます。エッセー集なので、細切れの時間でも読めるところも気に入っています。
ちなみにこの作品はシリーズになっており、今回紹介したセネカの著作「死ぬときに後悔しない方法」も読みやすく、生きる上でのヒントを多く得られる良書です。
興味を持っていただけた方はぜひ手に取ってみてください。
この記事が、日々のイライラを抑えるためのヒントになれば嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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