90歳になって水上スキーを始めるのは難しい。今それを我慢すれば、その分の金は貯まるだろう。だが、十分な金を得たときには、すでにそれができない年齢かもしれない。過去に戻って時間を取り戻すこともできない。 金を無駄にするのを恐れて機会を逃すのはナンセンスだ。金を浪費することより、人生を無駄にしてしまうことのほうが、はるかに大きな問題ではないだろうか。
ビル・パーキンス(BILL PERKINS)著・児島修訳『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』ダイヤモンド社(2020年)
今回は、ビル・パーキンス(BILL PERKINS)著『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』をご紹介します。
本書の主張は「ゼロで死ね!」。
つまり、「死ぬ前までに貯蓄を全部使い切ってしまおう」というものです。
かなりぶっとんだ考えのように思えますが、読み進めていく内に、著者がなぜこのようなことを言っているのか、その本質的な部分が見えてきます。
従来のマネー本では、
- 貯蓄の〇%を貯蓄に回して
- 老後の資金はしっかり準備しましょう
といったことが語られることが多いですが、本書はその真逆ともいえるでしょう。
次のような方におすすめしたい一冊です。
- 将来に向けてコツコツ貯金はしているものの、今の生活に充実感がない
- 貯蓄はある程度あるのに、漠然とした不安がぬぐえない
- 一度しかない人生、なるべく後悔はしたくない
本書を読むことで、今までと全く異なる価値観・考え方を得て、人生がガラッと変わってしまう方さえいるかもしれません。
この記事では、本書の「基本情報」に触れた後に、重要ポイントに絞って解説していきたいと思います。
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『DIE WITH ZERO』の基本情報
- 著者 :ビル・パーキンス(BILL PERKINS)
- 訳者 :児島修
- 発行 :2020年9月29日
- 発行所:ダイアモンド社
著者のビル・パーキンスは、アメリカ領ヴァージン諸島を拠点とするコンサルティング会社のCEOです。
45歳の誕生日パーティーを人生最高のものにすべく、リゾート地に多くの親族・友人を招待したエピソードも書かれており、著者はかなりお金持ちと思われます。
「なーんだ、結局『ゼロで死ね』なんて、突拍子もないことを言えるのは、お金に余裕があるからなんだ。」
と思ってしまいますよね。
ですが、この本は私たちのような一般市民の役に立たないのかと言えば、そんなことはありません。
以下は、私がこの本から抽出した重要ポイントです。
- 人々は喜びを先送りしすぎている。節制して節制して、貯めたお金をいつ使うのか?
- 人は老後に金を使わなくなり、試算の大半を残して死んでいく。
- 人生にはその時々で相応しい経験がある。
- タイムバスケットで「先送りにし過ぎる」ことを防ぐ。
- 「健康」「金」「時間」のバランスで人生を最適化する。
それぞれ、詳しくみていきます。
人々は喜びを先送りしすぎている
まずは、有名なアリとキリギリスのイソップ寓話から始めよう。 夏のあいだ、勤勉なアリは冬の食料を蓄えるためにせっせと働いた。 (中略) アリは生き残り、キリギリスには悲惨な現実が待っていた―。
この寓話の教訓は、人生には、働くべきときと遊ぶべきときがある、というものだ。もっともな話だ。 だが、ここで疑問は生じないだろうか? アリはいつ遊ぶことができるのだろうか?
ビル・パーキンス(BILL PERKINS)著・児島修訳『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』ダイヤモンド社(2020年)
著者は、「アリ的」に生きている人々にもっと「キリギリス的」な生き方をすることを勧めます。
“今味わえるはずの喜びを極端に先送りすることに意味がない”というのです。
ある程度の経済的基盤があって、お金の心配などしなくてよい人々まで、“今しかできない経験のために使えるお金を、無駄にためこんでいる”といいます。
盲目的に金を貯めることに一生懸命で、そのお金をいつ、どのように使うのかを真剣に考えていないのです。
著者は、キリギリスのように「享楽的に生きればいい」と言っているのではありません。
万が一の時の備えは必要ですし、現在の楽しみを我慢することで、将来得られる喜びが何倍にも大きくなることもあります。
ですが、そのバランスが偏りすぎていることが問題だと指摘します。
私が言いたいのは、現代の社会では、勤勉に働き、喜びを先送りすることを美徳とする、アリ的な生き方の価値が持ちあげられすぎているということだ。その結果、キリギリス的な生き方の価値が軽視されすぎている。
つまり、キリギリスはもう少し節約すべきだし、アリはもう少し今を楽しむべきなのだ。この本の目的は、アリとキリギリスの生き方の中間にある最適なバランスを見つけることだ。
ビル・パーキンス(BILL PERKINS)著・児島修訳『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』ダイヤモンド社(2020年)
人は資産の大半を残して死んでいく
本書にはびっくりする統計データが載っていました。
年齢別の純資産データなのですが、純資産は年齢が上がるにつれて右肩上がりです。
60歳から90代までの退職者では、いつまでも収入と同じくらいの支出を続ける傾向があり、老後のために貯めておいたお金にはなかなか手をつけません。
また、資産額が少ない人(退職前に20万ドル未満)でも、退職後の18年間で資産の4分の1しか使っていないそうです。
アメリカのデータではあるのですが、こうなってくると、頑張って働いて老後資金を貯めることに意味があるのか?とさえ思ってしまいます(笑)。
なぜ、人々はそんなに多くの試算を残して死んでいくのか?
その理由はシンプルで、老後にはそんなにお金を使わなくなるからです。
リタイア直後は老後の楽しみにしていた経験をしたくてうずうずしている。それを行動に移す気力も体力もある。その後、一般的には70代になると、人生でやり残したことも徐々に減り、体力も衰えるため、行動は穏やかになっていく。そして80代以降は、どれだけお金に余裕があっても、積極的に行動しようとしなくなる。
ビル・パーキンス(BILL PERKINS)著・児島修訳『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』ダイヤモンド社(2020年)
お金を使いたくても、年を取れば体力が衰えて長期の旅行にも行けなくなるし、食事量も減って豪華な食事も楽しめない、好奇心や気力も低下するので、「○○したい!」ということが段々と無くなっていく…。
少し寂しい気もしますが、なんとなく理解はできます。
しかし、若い内に「年を取るとお金を使わなくなる」ことをリアルにイメージできる人は少ないため、今の自分の生活をベースに老後資金を準備しなければと考えがちです。
そうすると、結果的に「過剰に準備する」ことになってしまうのだと思います。
人生にはその時々で相応しい経験がある
冒頭の引用文でも「90歳で水上スキーに挑戦することは難しい」とあるように、人生にはその時々で相応しい経験があります。
本書では、著者がウェイクボード (水上のスノーボードのようなスポーツ) に挑戦するかどうか迷った時の判断基準について書かれていました。
著者はこの時50歳で、ウェイクボードに挑戦する体力がありました。
しかし、後7年後には、体力が衰えチャレンジ自体が難しくなる可能性もあります。
つまり、「今」やらなければ、チャンスはもう巡ってこないかもしれない。
このように考えたことで、最終的にはウェイボードに挑戦することを決めました。
“年を取って体力が落ちたとき、若い頃にもっといろんなことに挑戦すればよかったと後悔したくないからだ”と言います。
私には、小1の息子と保育園年中さんの娘がいるのですが、「家族旅行」に関して、著者と同じようなことをよく考えます。
遠方への泊りがけの旅行ともなれば、それなりに費用が掛かりますが、子どもが「こども」である時間は限られています。
子どもがもう少し大きくなれば、勉強や部活動で忙しく、反抗期とも重なって、積極的に親と旅行したいとは思わなくなりそうです。
子どもと一緒に旅行ができる期間というのは想像していたよりもずっと短く、我が家の場合はせいぜい後5~6年といったところでしょうか。
そうなると、多少お金が掛かっても「今しかできない家族旅行にお金を使う」ことに意義があると思えます。
著者は“人生で一番大切な仕事は「思い出づくり」”と言っています。
年を取って、身体が弱って思うように行動ができなくなっても、私たちは、思い出を通して人生の出来事を再体験できます。
お金から価値を引き出す力は年を重ねるにつれ落ちていきますが、思い出の価値は落ちないのです。
タイムバスケットで先送りにしすぎることを防ぐ
さまざまな経験のなかには、将来に先延ばししても特に問題がないものもある。20代のときに行けなかった旅行を、まだ体力がある30代に楽しむことはできる。だが体力が落ちていくにつれ、先延ばしできる期間にも限度が出てくる。 実際のところ、私たちが思っているほど先延ばしにできない経験は多い。にもかかわらず、私たちはそれを自覚していない。
ビル・パーキンス(BILL PERKINS)著・児島修訳『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』ダイヤモンド社(2020年)
著者は人生の各ステージの有限さを意識しやすくするツールとして「タイムバスケット(時間のバケツ)」を紹介しています。
これは、人生を5~10年の間隔で区切って、その時間の中でやりたい活動やイベントを書き込むという方法です。
こうすれば、「自分は残りの人生でなにをしたいのか」を、大まかな時間の枠の中で捉えることができるので、先伸ばしにし過ぎて後悔することを防げます。
「やりたいこと」をバケツに入れていく作業は、簡単なものもあれば、難しいものもある。はっきりとどの時期に実現したいかがわかるものもある一方で、旅行など、いつでもできると思えるようなものもある。ただし、すでに述べたように、70代や80代のときよりも、40代や50代のときのほうが旅をしやすいのは事実だ。(中略) 当然ながら、体力が求められる活動は、全般的にタイムバスケットの左側 (若い時期) に寄ることになる。
余談になりますが、私は仕事柄、ご高齢の方に関わることが多く「若いことは財産だ」みたいなことを割と頻繁に言われます。
体力や気力が充分にあるのは、それだけで価値のあることなのかもしれません。
このリストは完璧である必要はありません。経験や出会いによっても「やりたいこと」は変わっていくため、折に触れてリストを見返し、内容を修正していくといいそうです。
「健康」「金」「時間」のバランスで人生を最適化
人が人生を最大限に充実させるための3大要素、「金」「健康」「時間」のバランスについても考えてみよう。
問題は、これらのすべてが同時に潤沢に手に入ることはめったにないということだ。 一般的に、若いときは健康で自由な時間もあるが、金はあまりない。逆に、老後生活を送っている60代以上の人は、時間は豊富にあり、たいてい金も持っている。だが、残念ながら健康状態は衰えている。だから、若者と比べて時間と金から価値を引き出す能力は低い。
ビル・パーキンス(BILL PERKINS)著・児島修訳『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』ダイヤモンド社(2020年)
両者の中間にある、いわゆる「中年」の年代は、若いころよりも稼ぎがよく、健康に不安もあまりなくてバランスが取れています。
ですが、この年代は「時間」が不足しがちです。子育てをしていればなおさらですよね。
各年代において、人生を充実させる経験を増やすには、この「金」「健康」「時間」のバランスを取る必要があります。
そのときに豊富なものを、足りないものと交換するのです。
ですが、人々は「金」に比重をかけすぎている場合が少なくないそうです。
特に中年の人は、余裕があるなら積極的に金で時間を買うべきだといいます。
また、著者は “健康は、金よりもはるかに価値が高い”と言います。
どんなにお金があっても、健康が損なわれていたらそれを補うのは難しいですが、健康であれば、お金があまりなくても人生を楽しむことができます。
おわりに
今回は、『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』をご紹介しました。
内容をしっかりみていくと、
「結構まっとうなことを言っているな」
といった印象を受けた方も多いのではないでしょうか?
この記事ではご紹介しきれませんでしたが、
- 資産は45~60歳で切り崩し始めよう
- 死んでから子どもに与えるのは遅すぎる
といった内容も、とても新鮮でした。
お金のことを考えることは、人生のことを考えることです。
いつどれくらいの額を使って、将来に向けてどれくらい準備するのか、それらを考えることは「自分がどう生きたいのか」を深堀りしていく作業だと思います。
本書は、自分のお金に対する価値観を見つめ直してみるきっかけを与えてくれる良書です。
興味を持っていただけたら、ぜひ実際に本書を手にとってみてください。
この記事が少しでもお役に立てれば嬉しいです。最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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