『デジタルで変わる子どもたち―学習・言語能力の現在と未来』【解説・感想】

本の紹介

今回は、バトラー後藤裕子著『デジタルで変わる子どもたち―学習・言語能力の現在と未来』をご紹介します。

この作品は、生まれた時からデジタル・テクノロジーが身近にある子どもたちの言語能力について書かれた本です。

最近では小学生でスマホを持っている子も珍しくなくなりましたが、20~30年前はスマホやタブレットなんて存在せず、学校で「一人一端末(タブレット)」なんて想像もできませんでした。

親世代と子ども世代の “子ども時代のデジタル環境” は様変わりしています。

本書は、こうしたデジタル・テクノロジーが子ども達にどんな影響を与えているのか気になる親御さんにオススメの一冊です。

多くの科学的な研究をベースにまとめられているため、内容にとても説得力があります。

今回は、➀動画視聴 ➁SNS ③紙とデジタルの読解力の差 ➃デジタルゲームについて解説していきたいと思います。

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動画と幼児の言語能力

2歳以下にはテレビ・動画はみせない方がよい?

「テレビや動画って、何歳くらいから?」「一日にどれくらいなら見せてもいいの?」

と、疑問に思う方も多いと思います。

テレビ・動画と子どもの言語能力については、数多くの研究がなされていますが、その結果にはばらつきがあり、はっきり「よい」とも「悪い」とも言えないのだそうです。

しかし、アメリカの小児科学会は、1999年の報告書で、2歳以下の幼児へのテレビ視聴を避けることを促しています。(2011年・2016年の報告書でも同じ結論)

(前略) それまでの実証研究のレビューを行い、その結果、2歳以上の幼児に関しては、質の高い、年齢・認知レベルに合ったテレビ番組・動画を視聴する場合には認知・言語発達上のメリットも期待できるが、2歳以下では、番組の質・視聴時間の長短に関わらず、マイナスの要素のほうがプラスの要素より潜在的にずっと大きいと結論づけた。

バトラー後藤裕子著『デジタルで変わる子どもたち―学習・言語能力の現在と未来』株式会社 筑摩書房(2021年)

また、2歳以上であっても、「1日2時間を限度とすることが好ましい」としています。

テレビの視聴時間が長い程、語彙数・読解力といった言語能力が低いという研究結果も多くあるそうです。

ビデオ不全とは?

2歳以下の幼児の場合、テレビ・ビデオからの学習は、現実の世界で同じことを学ぶのに比べて劣るといわれており、これをビデオ不全といいます。

普段なにげなく見ているテレビや動画ですが、実はその内容を理解するには高い認知機能が必要です。

テレビでは「ワイプ」などの演出を使って時間が過去に戻ったり、一気に進んだり、別の場所に移ったりすることがありますよね。

実際にはない効果音やBGMを乗せることもあり、こうした「映像のルール」に慣れていない幼児にとっては、内容を理解するのが難しいのだそうです。

幼児向けの番組を見せておけば、そこから何かしら学び取ってくれるのではないかと期待してしまいますが、残念ながらそうはならないようです。

相互交渉(やりとりを行う)ことが大切

ついつい「見せっぱなし」になりがちなテレビや動画も、「見せ方」によっては子どもの言語能力を伸ばすツールになります。

ポイントは、親も一緒に見て相互干渉(やりとりを行うこと)です。

・スクリーン上のモノやキャラクターに一緒に注意を向けること(共同注意)

・番組・動画の内容や、子どもの反応に対して言語的な反応を返してあげること。   

 子ども:「ねぇ、ママ。ねこ!」   親:「本当だ、ねこだね。」

「どんなことが・いつ・どこで・どのように・なぜ」起ったのか質問し対話すること。

 親:「ねこが泣いているね。どうしたのかな?」

慌ただしい毎日の中で、子どもと一緒に幼児向け番組を見るというのは、簡単なようでハードルが高いですが、ムリのない範囲でやっていけるといいのかなと思いました。

「紙」or「デジタル」読みの違いは?

「紙」と「デジタル」での読みの差

最近は、以前よりスマホやタブレットで文章を読むことが増えた方も多いと思います。

では、「紙」で読むのと「デジタル(スマホ・タブレット・パソコン)」で読むのは、何か違いがあるのでしょうか?

結論、読解に関しては基本的に「紙」と「デジタル」で大きな差はないものの、細かく見てみると、条件によっては違いがでてきます。その違いはこんな感じです。

  • 物語などのフィクションでは差はないが、説明文(内容を正確に把握する必要がある読み)では「紙」の方が読解結果が良い。
  • 英語の場合500文字以上の長い文章では、「紙」の方が読解結果が良い。
  • 文章から要点を理解するのに差はないが、細かい部分を記憶したり、推察しながら読んだりする際には「紙」の方がパフォーマンスが良い傾向にある。

文章のジャンルや長さによって違いが出てくるというのは面白いですよね。

「紙」の持つ身体性とは?

「紙」と「デジタル」の決定的な違いは、物理的な形があるかどうかです。デジタル書籍でも書かれている内容は紙の本と変わりませんが、紙の本は「情報」であると同時に「モノ」でもあります。

(前略) ページをめくった時の紙の感触や、何ページくらいある本で、どれくらい読み進めたかなど、本の物理性を視覚的・触覚的に感じ取ることである。「あのセリフは、本を三分の一ほど読み進めたあたりの、ページの左上のほうだった」などという記憶は読者もあるだろう。こうした読みに関わる空間記憶のようなものは、スクロールで流動するデジタル・テクストより、空間が固定されている紙の上での読みの方が定着率が高い。

バトラー後藤裕子著『デジタルで変わる子どもたち―学習・言語能力の現在と未来』株式会社 筑摩書房(2021年)

また、文章を読みながら気になったページに書き込みをしたり、アンダーラインを引いたりすることもありますが、この時に「ペン」で行うことが重要であり、「マウス」や「タッチパネル」で行う操作とは同じにはならないといいます。

 (前略) 本の持つ物理性・身体性のメリットはなかなかハードルが高い。特に1ページにおさまりきらない長さのテクストで、テクスト内の異なるページを移動したり、パラパラとページをめくってみたり、複数のテクストの必要なところを読み比べたりなどという行為を行う際には、現在のテクノロジー技術をもっても、紙媒体の優位性が浮き出てくる。

バトラー後藤裕子著『デジタルで変わる子どもたち―学習・言語能力の現在と未来』株式会社 筑摩書房(2021年)

ページをめくる動作一つとっても、「デジタル」で読む際には画面をタップしたり、スクロールしたりする必要があり、人はそうした操作をページを読み終えてから行うそうです。一方、「紙」の場合はページを読み終わる前にすでにページをめくりはじめています。

これらのほとんど意識にも上がらないような、ちょっとした動作の違いが、読解への集中力や効率に影響を及ぼしてくるのです。

現実のデジタル媒体での読みはもっと複雑

本書で紹介されている研究の多くは、同じ文章を「紙」と「デジタル」で読んだときの違いについて調べたものです。しかし、現実のデジタル媒体での読みはもっと複雑です。

例えば、ハイパーリンク。関連する情報に次から次へとアクセスでき、効率よく情報を集められる一方で、一時的に別の文章に移ることで元の文章の流れを中断してしまいます。

ハイパーリンクが張ってあると、読者はどのリンクを読むのか判断しなければならず、これによって認知資源を多く使ってしまい、読解力が下がることもあるといいます。

その人のキャパシティーによって、「読み」にプラスにもマイナスにも作用するのです。

また、画像や動画が張り付けられていて、そちらのインパクトが強く、文章が補足的になってしまうこともあります。そこから読み取られる「意味」は個人差が大きく、文章が主体の情報とはかなり異なったものになる可能性があります。

上手に使い分けることが重要

作家や研究者、編集者といった普段から文章を多く読む人たちを対象とした研究によると、このような「読み」の達人は、目的に応じて「紙」と「デジタル」を使い分けているといいます。

(前略) ある現象の大まかな傾向をつかみたい時には、デジタル媒体でヘッドラインや写真をとばし見し、詳細な情報を正確に得たいときには、プリントアウトして、他情報へのリンクがあえてできない状況を作り、テクスト情報の理解に集中するなどである。こうした達人は、紙媒体、デジタル媒体の持つ特徴を有意義に利用して、情報を効率的に選別し、正確に理解し、知識として蓄えている(Hillesund,2010)。

バトラー後藤裕子著『デジタルで変わる子どもたち―学習・言語能力の現在と未来』株式会社 筑摩書房(2021年)

「紙」と「デジタル」を上手に使い分け、必要な情報を効率よく集めつつ、批判的な読みができるようになりたいものです。

SNSの影響

SNS上の「打ちことば」とは?

「打ちことば」はスマホなどのデジタル機器で「打って」使われる言葉のことです。

「乙(お疲れ様)」「り(了解)」「おk(OK)」「ks(ケーエス=既読スルー)」など、パッと見ただけでは意味が分からないものもありますが、遊び心のある新しい言語形態といえます。

しかし、SNS上でよく使用されているこれらの「打ち言葉」が、子どのたちに悪い影響を及ぼしているのではないかと懸念する声も多くきかれます。

「打ち言葉」の影響

日本では、「打ちことば」と「子どもたちの読み書き能力」との関係を調べた研究がなく、はっきりとしたことは分かっていません。欧米では多くの研究が行われているものの、結果は「良い」とするものと「悪い」とするものが混ざっているそうです。

その中で「打ちことば」がマイナスに影響を与える場合をみていきましょう。

ローゼンら(2010)の研究では、18~25歳の若者を対象に、タイプの違う2つの作文を作らせました。すると、普段「打ちことば」を多く使っている若者ほど、「フォーマルな作文」の質が低い傾向にあり、特に大学教育を受けていない若者で、その傾向が強いことが分かりました。

ここでいう「フォーマルな作文」とは学校教育で求められるような“抽象的な思考を伴う、高い認知力を必要とする”作文です。

「打ちことば」はデジタル世代の言葉の世界を豊かにしている側面があるものの、学校教育で求められるような学習言語とは相いれない部分も多いです。

著者は“学校教育でいい成績を収めるには、おそらく使い分けが重要になってくると思われる。”と述べています。

SNSのやりすぎは「文章に触れる機会」を奪っているかも

最近人気のSNSは、Instagramなど写真や動画を中心としたものが多いです。LINEも人気ですが、「語」や「フレーズ」でのやりとりの大部分で、きちんとした「文章」を書くのはまれだと思います。

文章に接する時間が「読みの力」を左右することは古くから知られています。「打ちことば」を使うことが、直接的に「読み書き能力」に悪い影響を与えていなかったとしても、やりすぎることで文章に触れる機会を奪っている可能性はあります。

思考や学習の土台となる言語認知能力がしっかりと身につかなければ「文章を読むこと自体が苦痛」となる子どもたちが増えていくかもしれません。

デジタルゲームの影響

デジタルゲームは時間の無駄?

ゲームというと「ゲーム依存」や「メンタルヘルス」の問題など、そのマイナス面がよく取り上げられますが、人間は古くから様々なスキルを身につけるためにゲームを利用してきました。

そうは言っても、子どもが長時間ゲームに没頭しているのを見ると心配になってしまいますよね。

この章では、学習場面でのデジタルゲームの可能性についてみていきます。

日本では、オンラインゲームを指導に取り入れる取り組みは今のところほとんどありませんが、海外ではこうした試みが増えてきていて、研究結果をみても、いろいろな学習分野でデジタルゲームは効果的だとしています。

学校での勉強に留まらず、軍隊で射撃や軍事訓練の様子を現実味たっぷりに経験できるものや、消防士の訓練のためのシミュレーション・ゲームといったものもあるそうです。

外国語学習ではどうか?

では、本書のテーマになっている「言語」特に外国語学習に絞った場合はどうでしょうか。

言語学習にはいくつか重要な要素があります。それは、「インプットの質と量」「実際の場面で目標言語を使う機会を得ること」「挑戦しがいがあって楽しいこと」「繰り返し」です。

外国語学習には「意味のある」大量のインプットが必要です。「意味のある」というのは、コミュニケーションの中で言葉を通したやり取りが行われることを指します。

対して従来の学校の授業では「Repeat after me!」と、先生の言ったことを反唱したり、「What is your name?」など、すでに知っている同級生の名前を尋ね合うなど、コミュニケーション上の「意味のない」ものが多いと言えます。

その点、外国語でデジタルゲームを行う場合、特に対人型のゲームでは「意味のある」インプットを得られやすい可能性があります。チームを組んで対戦する場合などは、チームメンバーとのやりとりが勝つための必然性を伴うからです。

また、ゲームなら楽しく繰り返すことができるのも見逃せない利点です。4~12歳の日本の子ども達が英語学習目的に作られたゲームをプレイしたデータを分析すると、ほぼすべての子供たちが満点を取れるようになるまで、平均100回も繰り返しプレイしていたそうです。

「デジタルゲームと外国語の語彙学習との関係を調べた研究」をメタ分析した結果によると、全体的にはデジタルゲームベースの語彙学習はそうでない従来の学習より効果的ですが、その効果の度合いは条件によって違ってくるといいます。

ゲームのスタイルは、単純な繰り返しより「タスク型」の方が有効で、全くの初心者より多少学習経験のある方がゲームの効果が高いというのは、覚えておいてよいかもしれません。

いずれにしても一番重要なのは、どのようにゲーム中に言語が使用されたかという点です。

まとめ

今回は、バトラー後藤裕子著『デジタルで変わる子どもたち―学習・言語能力の現在と未来』をご紹介しました。

本書は、研究をベースに書かれているため、学術的な表現などもあって読み応えのある一冊でしたが、頑張って読んだ分、得られるものも多い良書です。

研究が十分でない分野に関しては「はっきりとしたことは分からない」としながらも「デジタル」が子ども達に与える影響について多くのことを示唆していると思います。興味を持った方は、実際に手に取ってみてください。

この記事が何か少しでもお役に立てたなら嬉しいです。最後まで読んでいただいてありがとうございました。

プロフィール
ひなた

・1989年生まれ
・2児(5才・7才)を育てるワーママ
・本が大好き 
 年間読書量:90冊
 ※Audibleでの【耳読書】含む

このブログでは、子育てや仕事、生き方に迷ったとき私を支え、活力となってくれた本をたくさんご紹介していきます。

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