今回は、ボーク重子 (Bork Shigeko)著『「非認知能力」の育て方 心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育』という本をご紹介します。
著者の一人娘、スカイは「全米最優秀女子高生コンクール 優勝(2017年)」という快挙を成し遂げました。
この作品は、そんな娘を育てた著者が実際に行ってきた「非認知能力」の伸ばし方について書かれた本です。
“「この子には、自分らしく生きてほしい。どんなときも自分自身で人生を切り開くことのできる、心の強い人間に育ってほしい」”
という親としての強い想いが感じられる作品です。
著者は、全米・日本各地で子育て・キャリア構築・ワークライフバランスについての講演会やワークショップを行っています。
本書でも「具体的に何をしたらいいの?」ということにボリュームが割かれているため、
- 子どもの可能性を伸ばしてあげたい
- 心の強いたくましい人に育ってほしい
- 家庭で無理なくできる、非認知能力の伸ばし方を知りたい
という方におすすめの一冊です。
著者やその娘の華々しい経歴をきくと、なにか特別な教育をしていたのでは? と身構えてしまいますが、紹介されているのは、心がけひとつで今すぐにでも実践できることばかりです。
具体的な方法を知りたい方は、目次から〔2.家庭で伸ばす「非認知能力」〕に飛んでみてください。
【忙しいあなたへ プロのナレーターによる本の朗読アプリ 「Audible」もおすすめ】
※無料体験中でも解約できます
アメリカでは一足先に「非認知能力」が注目される
「非認知能力」が注目されるきっかけになったのは、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授の研究です。
就学前に幼児教育を行った子どもは、そうでない子に比べ、高校卒業率や平均所得が高く、生活保護受給率などは低いという結果が出ました。
人生をよい方向に導くことができたのです。
この研究で幼児教育を受けた子ども達がもっとも伸ばしたのが「非認知能力」でした。
研究の結果、乳幼児期などの早期教育では、学習面を強化しても、IQ の数値を短期間高めるだけで、長期的に高めることにはつながらないことが分かりました。就学前教育を受けた子どもたちがもっとも伸ばしたのは、学習意欲をはじめ、誘惑に勝つ自制心や、難解な課題にぶつかったときの粘り強さなどの「非認知能力」だったのです。 さらにヘックマン教授は、IQ よりもこうした「非認知能力」の方が、実際の社会生活では重要とされることが多いことも指摘しています。
ボーク重子(Bork Shigeko)『「非認知能力」の育て方 心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育』株式会社 小学館(2018年)
さらに、アメリカの大学では人種差別をなくそうと、1960年代から様々な人種に門戸を開く動きがでてきました。
ですが、入試がテストの点数重視では、準備が充分にできる恵まれた経済環境を持つ子や、学力に秀でた子ばかりが集まります。
多様性のない集団の中では、視野が狭くなり、共感力や想像力も育ちにくいでしょうし、多様な才能によって互いを刺激し合うこともできません。
こうした経緯もあって、個人をあらゆる角度から評価しようとする動きが90年代から始まりました。
「全米最優秀女子高生コンクール」でも、アイビー・リーグなど全米トップの大学の入学試験でも、審査基準として求められているのは、「正解のない問題に、自分らしく立ち向かって解決していく力」です。(中略) 今やアメリカで最も重視されている子どもの能力は「学力」ではなく、人間としての基本的な力、つまりこの「非認知能力」なのです。
ボーク重子(Bork Shigeko)『「非認知能力」の育て方 心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育』株式会社 小学館(2018年)
一方で、日本はどうでしょうか?
2017年にベネッセ教育総合研究所が行った調査によると、我が子に「もっと勉強をしてほしい」と考える親の割合は4割以上にのぼるそうです。
先行きが分からない不安から、学歴重視の傾向が強まっているのかもしれません。
しかし、そんな日本でも2020年の教育改革で「非認知能力」を伸ばすことに注力していく方針が明確に打ち出されました。
大学入試の方法も変わりつつあり、知識だけでなく「思考力・判断力・表現力」などを評価する流れもあります。
今後は日本でも「非認知能力」が重要視されるのは間違いなさそうです。
家庭で伸ばす「非認知能力」
ここまで読んでいただいて、
「非認知能力が大切なのはわかったけど、どのようにして伸ばしてあげたらいいの?」
と思った方も多いでしょう。ここからは、家庭でできる「非認知能力」の伸ばし方について解説していきます。
本書では大きく3つに分けて家庭でできる取り組みが紹介されていました。
ボーク重子(Bork Shigeko)『「非認知能力」の育て方 心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育』株式会社 小学館(2018年
- 家庭のルールづくり (世の中にはルールがあることを教え、守らせる)
- 豊かな対話とコミュニケーション (表現する力と自信を養う)
- 思う存分、遊ばせる (遊びの中から問題解決能力を伸ばす)
それぞれについて、詳しくみていきます。
家庭のルールづくり
ルールを作る重要性
子どもにやりたいことをやらせるのは大切ですが、何でも好き放題にさせていいわけではありません。
無法地帯では、自分勝手で思いやりにかけた衝動的な子どもになってしまいます。
親が明確な「限界」を設定してあげることで、子どもは「ここまでならやってもい」という安心感を得ることがでます。
4歳以降では、きちんと説明すればルールを理解できる子が増えてくるので、著者もこの頃に家庭でのルールを決めたといいます。
ルールを守ることができると「自分はきちんとルールを守れる!」と自信と達成感を感じることができますし、小さな達成感を積み重ねることで自己肯定感も高まります。
また、小さい頃から始めれば、それが「当たり前」として習慣になるので、長い人生を通していい影響があります。
ルールの作る際には、次を意識するといいそうです。
- 本当に大切な事についてルールを作る
- ルールの内容が年齢相応である
- ルールを決める時、話し合いに子供も参加させる
著者は、上のポイントを押さえた上で「基本ルール」「Doルール」「Don ‘ t ルール」の3種類のルールを作って実践していました。
3種類のルール
基本ルール
家族のあり方の基本になるルールで、原則的にいつ、どこにいても、誰に対しても守るべき「行動指針」のようなものです。
著者の家庭では、
- Polite (いつも礼儀正しくする)
- Autonomy (主体性:自分でできることは自分でやる)
- Honest (正直に生きる)
- Community (家族の責任ある一員として生きる)
の4つを基本ルールにしていたそうです。
Doルール
子どもの年齢に合わせて決める「やるべきこと」です。
ルールが多すぎると子どもがうんざりしてしまうので、10を超えないようにするのがよいと言います。
例えば、4歳の頃には、「おはよう」「おやすみ」の挨拶をすること、夕食の時にテーブルマットを置くお手伝いをするなど、4つ程ルールを決めていたそうです。
Don’tルール
文字通り「してはいけないこと」です。
やってはいけないことが多いと息が詰まってしまうので、Doルールよりも数を少なめにすると効果的です。
どんなときにも絶対やってはいけないことを決めていきます。
子どもがルールを守らないときは?
せっかくルールを作っても子どもがそれを守らないときはどうすればよいでしょうか。
まずは、子どもに「やりたくない理由」「やれない理由」を説明する機会を与えます。
「体調がすごく悪い」など、仕方がない場合は特例として見逃し、そうでない場合にも話し合うことによって「それは自分がやるべきことで、責任がある」ということを自覚させるように促します。
頭ごなしに叱ってしまいそうになるのを抑える親の「非認知能力」が試されますね。
豊かな対話とコミュニケーション
コミュニケーション力の基礎を作るのは家庭での言葉かけです。
子どもへの声かけが単なる「指示だし」になってしまい、親子でじっくり話をすることは意外と少ない…という方もいらっしゃるかもしれません。
幼児期に聞く言葉の数が、将来の学力の差を生むというインパクトのある研究結果もあり、言葉の発達が子供の脳の発達を促すことが分かっています。
著者は、子供が赤ちゃんの時期から頻繁に話しかけ、声をかけながら一緒に遊び、毎日のように絵本を読み聞かせていたそうです。
ここからは、家庭でできる声かけや具体的な対応について、詳しくみていきます。
年齢別、対話の基本
3歳頃までの小さな子どもは、単に言葉を知らないから話せないということもあります。
そのため、この時期は保護者が丁寧に教えてあげます。
(例)「これは車だね。」「赤い色だね。」
さらに大きくなると「どうしてお空は青いの?」「犬はどうしてワンワン言うの?」といった質問を繰り返す時期があります。
忙しい時にはやや面倒に感じてしまいますが、「どうしてだと思う?」と聞き返すことで、子供に疑問に思ったことを考える習慣をつけさせます。
この時、間違った回答でもすぐ否定するのではなく、自分で考えたことを認め、なぜそう思ったかを詳しく聞いてみるといいそうです。
質問で答えを導く手伝いを
「どんな方法があると思う?」「自分だったらどうすると思う?」などと、イエス・ノーで答えられない質問を重ねることで、自分で考えて答えを導く手助けをします。
ここでもやはり、子供の返答に対して「なるほどね」「そうなんだね」と共感を示してから「どうすればいいと思う?」と会話を広げていくのがよいそうです。
子どもの語彙力を伸ばす
子供に話しかけるのと同じように本を読みきかせすることも大事です。
著者の家庭では、毎月「テーマ」を決めてそれに関する絵本を集中的に読んだそうです。
例えばテーマが「ひまわり」なら、「ひまわり」まつわる様々な単語…土や栄養、環境、日光などを学んでいくことができます。
親が話しかける言葉は「量」だけでなく「質(語彙の豊かさ)」も重要です。
親同士や家族のメンバー同士でたくさん話している家庭では子供の語彙も豊かになり、子供の言葉の能力が高くなるという研究結果もあります。
論理的な対話で子供の自制心を高める
論理的に理由を話すことは、子供の自制心を伸ばすことにつながります。
例えば、ただ単に「お店では走ってはいけない」でなく、なぜそれがいけないのかを丁寧に説明します。
「お店で走ったら、他の人にぶつかって怪我をするかもしれない」といったように、「それをすると理論的にはこうなる可能性がある」という因果関係を伝えます。
自分の行動が他者に与える影響について想像させることで、自分を抑えてその場にふさわしい行動を選択する手助けをします。
人前で話す自信をつける
自分の意見や考えを人前で話すことに苦手意識を感じる方も多いと思います。
「間違ったことを言ってはいけない」とか「何かすごいことを言わないといけない」と考えると緊張してしまいますよね。
子どもに表現する自信をつけさせるためには、親が子供の話しをさえぎったり、無視したり、批判したりせずに、しっかりと耳を傾けることが大切です。
子どもが「何を言っても大丈夫」と思えることは、「表現できる」土台になります。
また、小さな頃からある程度まとまった話しをする練習を積むことで、人前で話しをする基本を身につけさせます。
著者は、食事の際に「今日1日あった出来事」や「今日一番楽しかったこと」など、テーマを決めて子供に話してもらっていたそうです。
いつどこで何があり、それに対してどう思ったかなど、より具体的に話してもらうようにします。
最初のうちは難しいため、親がうまく質問をしながら話しを広げるとよいそうです。
思う存分、遊ばせる
近年、日本では子どもが遊ぶ時間が大幅に減少しているといわれていますが、幼児期には知識を詰め込むより、遊びを通して社会性や情動面を育てる方が、生涯的な成功につながりやすいという研究結果が多数、報告されています。
ボーク重子(Bork Shigeko)『「非認知能力」の育て方 心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育』株式会社 小学館(2018年
アメリカの「遊びの研究所」創設者のブラウン博士は、遊びは脳の柔軟性や順応性を高め、創造的にするといいます。
遊びは“酸素と同じくらい人間にとって必須のもの”なのです。
ただ「遊んでいる」ようにみえても、子どもはそこから色々なことを学びます。
1歳にも満たない赤ちゃんは、おもちゃを舐めたり触ったりしながら、自分が何かに働きかけた結果について学んでいます。
もう少し大きくなると友達同士で遊ぶようになりますが、そこではルールや順番を守ったり、交代で行ったり、時には譲り合ったりする必要があります。
そんな中で、ルールを守る大切さを知り、他人を思いやる気持ちを身に着けていきます。
ここでは、著者が実践していた「遊び」をいくつかご紹介します。
外遊び
外遊びは自分自身の身体能力について知る最適な機会です。
どんなことをどの程度やったら危険なのか、それを全身で感じることによって自分の限界がわかるようになります。
子供は遊びを通じて、危険を予測して回避する力やスクに対応する方法を学びます。
また、日本に研究によれば自然の中で遊ぶ機会の多かった子どもの方が、自己肯定感が高い傾向にあったそうです。
著者は、娘と一緒にピクニック、公園でのランチ、公園の池でボートに乗るなど身近な自然の中でたくさん遊んだといいます。
残念ながら、子ども達が外で遊ぶ機会は最近どんどん減っているそうですが、意識的に外遊びが出来る機会を作ってあげたいですね。
問題解決能力を伸ばす遊び
問題解決をするためには、本質的に何が問題であるか見極め、それに適した方法で適切に解決していく力が必要です。
解決に当たってはある程度のリスクが伴う場合もあります。
そういった問題解決力は、幼少期に体験する遊びによっても培うことができます。
具体例として「(ボード・カード)ゲーム」「誕生会のお楽しみを自分たちで企画・実行する」「スパゲッティタワー」「料理」が挙げられていました。
「(ボード・カード)ゲーム」では、トランプ、UNO、オセロ、数人で行うボードゲームでよく遊んだそうです。
ルールを理解して活用する力や、戦略を考える力、状況に合わせて判断する力、相手の表情から戦法を読む力といった、高度な能力を楽しみながら身に着けることができます。
スパゲッティ・タワーという遊びは聞きなれない方も多いかと思いますが、4人一組で、20分間でスパゲッティ(乾麺)と紐とテープで自立可能なタワーを作るというものです。
試しに自分一人でやってみたのですが、かなり難しいです。
力加減を間違えるとスパゲッティがプツンと折れてしまったり、考えすぎて手が止まったりしてしまいます。
チーム戦となれば、どのように作っていくかを話し合う必要がありますし、コミュニケーション力や協働力も身に付きそうです。
スポーツ
著者は家族で色々なスポーツを経験したといいます。
スポーツには必ずルールがあり、これを守らなければ成り立ちません。
スポーツをすることでルールを尊重する姿勢を身につけることは、社会性を身につけていく上で非常に効果が高いといえます。
また、継続的に一つのスポーツをしていると、いつかは必ず負ける時が来ます。
負けることは「失敗から立ち上がる」という 「レジリエンス(へこたれない力)」 を身に着ける絶好の機会です。
スポーツは、継続してやっていれば程度の差こそあれ、何がしかの上達を感じることができるのも良い点です。
スキルの習得や上達は「自己肯定感」や「満足度」も「自尊心」を高めることにもつながります。
おわりに
今回は、『「非認知能力」の育て方 心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育』をご紹介しました。
冒頭でも書いたように、本書の内容は「心がけひとつで今からでも実践できること」ばかりです。
今回は紹介しきれませんでしたが、
- 子どもの自己肯定感の高め方
- 親自身の自己肯定感を高める重要性
についても詳しく書かれており、自分自身や子育てに自信が持てずに悩んでいる親御さんにもぜひ読んでいただきたい作品です。
この記事がなにか少しでもお役に立てれば嬉しいです。最後まで読んで頂きありがとうございました。
コメント