今回は、大原扁理著『年収90万円でハッピーライフ』をご紹介します。
本書は、東京・多摩で、年収90万円(月約7万円)、週休5日の隠居生活をしている著者が、「今よりラクに生きる」ための心得を教えてくれる作品です。
「趣味は読書と散歩」という著者の言葉は、数々の読書に裏打ちされていて、時に “一般論” とかけ離れていても、不思議と納得できてしまいます。
くだけた語り口で、笑える部分も多いのに、鋭い指摘が多いのも特長です。
- 頑張っているのに、毎日がなんだかしんどい
- 進学、就職、結婚…世間の「当たり前」に疑問を感じる
- 少ない年収でも “ハッピー” に生きたい
という方におすすめの一冊です。
本書を読み進めていく内に、いらない肩の力が抜けて、今よりきっとラクな気持ちになれるはずです。
※以前に『フツーに方丈記』という作品の紹介記事も書いていますので、よろしければこちらも読んでみてください。
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本書はこんな本
著者は1985年生まれ、25歳から東京で週休5日の隠居生活を始めます。
“平凡な低所得者層”の家庭に育ち、「学校でのいじめ」「劣悪な労働環境で体調を崩す」などの不幸も経験しています。
高校を卒業してからは、ほぼ実家に引きこもり、一人で過ごす時間が楽しくて仕方なかったそうです。
しかし、あまりにも人と喋らないせいでアルバイトのマニュアル以外の言葉が出てこなくなり、そのことに焦って突如、世界一周の旅に出ます。
ロンドンにもニューヨークにも住み着いたそうですが、そこで、「基本的にどこにいても、自分は同じような生活をしている」という気付きを得たそうです。
いろいろな意味でマイノリティーな人生を歩んでいる著者の視点は、いわゆる“フツー”の生活をしているとかなり新鮮です。
これは、社会的成功から乗り遅れまくったら、不幸になるどころか毎日が楽しすぎて、ジョーシキっていったい何だったんだろう、進学しなきゃいけないとか、就職しなきゃいけないとか、結婚とか子育てとか老後の蓄えとか、資格も技能もマナーもテレビもスマホも友達も、なくても生きていけるものばっかりじゃん。もー自分しか信じないもんね。何が幸せとか、自分で決めちゃうもんね。おならプーだ。という本です。
大原扁理著『年収90万円でハッピーライフ』株式会社 筑摩文庫(2019年)
一日の過ごし方
まずは、著者の平均的な一日をみていきます。
朝は6~7時、真冬は8時すぎくらいに起床。起きたらまず窓を開け、部屋の空気を入れ替えます。電気ケトルでお湯を沸かしている間にラジオ体操をして、白湯を飲みます。
白湯の後は紅茶を入れて飲むと、腸が動き出すのが分かるそうです。
手帳をみながら、今日の予定 (だいたい何の予定も誘いもない) を確認し、朝ごはんを食べます。
その後はずっと自由時間。読書や日記などを書いて過ごします。
昼食は簡単な麺類が多いそうです。
午後に散歩がてら近くの直売所に行ったり、図書館に行ったりすることもあります。
なんにも予定がないので、夕食も17時くらいにとってしまうそうです。
なんと言うか、ゆる~い、ですよね(笑)
この生活が魅力的に映るかどうかは人それぞれですが、私は趣味が読書&散歩と、著者と丸かぶりなこともあって、うらやましく感じます。
自由に使える時間がたっぷりありながらも、朝寝坊をすることもなく、食事も自炊して、生活に一定のリズムを作っている辺りには「意識の高さ」を感じます。
このメリハリ感が、「充実感のない、だらけるだけの生活」とは違うところなのかもしれません。
「食」について
(前略) 金銭的、健康的、精神的に自分が納得できるところとして、昔ながらの日本食に行き着きました。それも、平安貴族みたいなのじゃなくて、平民が食べていたような、粗食です。結果、毎日快眠快便、総合的にすんごいラク。こんなに身近に答えがあったとは……。
大原扁理著『年収90万円でハッピーライフ』株式会社 筑摩文庫(2019年)
食生活に関して、いろいろと試してみた結果、玄米菜食をベースにする粗食 (玄米、味噌汁、お漬物+α)に落ち着いたそうです。
その土地で取れた旬の作物を丸ごと頂く「一物全体・身土不二」という食養の考え方で調理します。
品数を多く作らなくてもいいので、時間もお金もそんなに掛からない上に、効率よく栄養がとれるということで、粗食は庶民向けの合理的な食事なんだそうです。
しかし、「粗食が一番!」と皆にオススメしているわけではなく、あくまで自分にあった食生活を見つけることが大切だといいます。
これを読んでいる方に誤解しないでいただきたいのは、わたしは今のところ粗食がベストという結論にたどりついたけれど、だからといってみなさんに合うとは限らないということです。これは、一般的に健康とされているベジタリアンでもマクロビでも同じ。食べるということは、胃にものを入れるだけのことじゃなくて、それぞれの生活に密接に関わっていることだし、その生活は千差万別だからです。
大原扁理著『年収90万円でハッピーライフ』株式会社 筑摩文庫(2019年)
何が合っているのかは、自分で試していくしかありませんが「自分が食に何を求めているのか」は一つの基準になるそうです。
「食に求めるもの」の例を挙げれば― 栄養補給・楽しみ・健康・他人とのコミュニケーション・ステータスなどです。
もう一つ基準は、“どういう環境でどういう生活をしているか”ということ。
著者の場合は、特に持病やアレルギーもなく、仕事もあまりしていないので日中の活動量が少ない。
お金はあまりかけたくないけれど多少高くても無農薬野菜を買う事には価値を感じる、一人暮らし、自炊する時間はある、キッチンが小さくてコンロは一つしかない…
こうした条件から、
“だいたい朝は食パン、昼は麺類、夜は玄米とお味噌汁に漬物、季節の常備菜をいつも一種類用意しておく!”
というパターンが決まったそう。
しかし、これにも「絶対」はなく、特には外食したり、玄米を白米にしてみたり、ゆる~く、やっているそうです。
「自分は何を求めているのか」「自分はどういう環境でどういう生活しているのか」を深く理解した上で、一番無理がないものを選んでいくというスタンスは、「衣」にも「住」にも共通していて、学ぶことが多いと思います。
本書から取り入れて役立っている考え方
ここでは、「ちょっとしんどいな」というときに繰り返し読み、自分の肥やしにしている考え方を4つご紹介します。
「どうすれば自分が幸せか?」を分かっていることが大切
だけどみなさんがイメージする貧困層の苦しい生活と違って、渦中から実際どうみえるかっていうと、これはこれで幸せなんだよな~。 だって、当然といえば当然なんです。何が幸せと思うかは人によって全然違うんですから。(中略) じゃあ、どんな場合にも当てはまる、いちばん大切なことって何でしょうか?それは、「どうすれば自分が幸せか?」を、他の誰でもなく、自分自身が知っていることじゃないかな。
大原扁理著『年収90万円でハッピーライフ』株式会社 筑摩文庫(2019年)
「食」に関してもあったように、「自分に何が合っているのか」「どうすると心地よいのか」は実際に試してみて、実感してみないと分かりません。
そしてそれには、時間が掛かります。
この部分を読むと、自分の中のちょっとした「違和感」や「気持ちよさ」を見逃さないで、「これは、なんかちょっと違うな」「本当はこうしたい」という想いを大切にしたいと感じます。
そして、それらを積み重ねていった先に、“世間や他人から押し付けられのではない、自分だけの幸せ” を見つけていけたらいいと思います。
迷ったら消去法―イヤなことで死なない
そこで、どうしても進まなきゃいけないときは、消去法がオススメです。 というのは、人間、やりたいことはわかんなくても、やりたくないことだけは意外と迷わないんですよね。 目の前にある選択肢から、どれをやりたいかではなく、やりたくないものからどんどん消去していきます。残ったものから「これならまぁガマンできるかな」というものを選ぶんです。(中略) 大切なのは、「好きなことで生きていく」じゃなくて、「イヤなことで死なない」。
大原扁理著『年収90万円でハッピーライフ』株式会社 筑摩文庫(2019年)
「自分の好きなことで生きていく」ことができたら、こんなに幸せなことはありません。
でも、「自分の好きなことで生きていかないと、幸せになれない」と変換してしまうと、結構しんどいと思います。
「自分の好きなこと」を見つけるのは、口で言うほど簡単ではないですし、見つかったところで、それで喰っていけるかどうかは別問題だったりしますよね。
そういう時に、「とりあえず、イヤなことで死ななければOK!」「残ったものから選べばOK!」と、ハードルをぐっと下げてもらえると、すごくラクになります。
実際、私も重要なことを決めるときには、まず「これは絶対イヤ」「これは自分には無理」という選択肢を外すところから始めていた気がします。
ベストな選択ができたのかは今でも分かりませんが、少なくとも、このやり方で
「こんなはずじゃ、なかった…」
と深く後悔したことはないので、「イヤなことで死なない」という基準は、あながち間違いではないのかなと思います。
家族はいちばん近くにいる他人
家族にまつわるあらゆる問題は、「家族はいちばん近くにいる他人だ」という前提を忘れてしまうことに、起因しているのではないかと思います。
なんて冷淡なって思うかもしれませんが、そのほうがいい面もある。まず、なんで家族なのにわかってくれないの! ってキレることが減ります。あと、たいがいのことは、他人だからしゃーないか、って思えます。ラク~。
大原扁理著『年収90万円でハッピーライフ』株式会社 筑摩文庫(2019年)
「大酒のみの母」や「息子が自分で働いて買ったお気に入りのサンダルを勝手に履いていく父」に対して、著者は複雑な想いを抱いていたようです。
ですが、上のように考えることで、無駄に怒ったり、落胆したりしないで済むように、折り合いをつけてきたのだと思います。
私の場合は、夫に対してイラついた時にこの部分をよく思い出します。一緒に暮らしていくと小さな不満、すれ違いなんてしょっちゅうです。
でも、“もともとは他人だ” ということを思い出すと、「本来、相手にはそうする義理もないのに、いろいろなことを自分にしてくれている」と改めて気付けます。
そうすると、「なんで分かってくれないの?」とイラついていることも、「まー、しょうがないかっ」って気分になってきます。時間がかかることもありますが…(笑)。
この考え方が自分の中にストックされていたことで、助かったことは多々あります。
自分にあった働き方とは?
学校で絶対に教えてくれないことのひとつに、お金の稼ぎ方があります。でも、稼ぎ方よりもさらに教えてくれないのは、お金を稼ぐ前の心構え。 与えられた環境も物欲も、必要なお金の量も人によって違うのに、なんでみんな一律に週5で働かなきゃいけないんだろう、って疑問に思ったことないですか? 必要なだけ働けば満足なのか、それ以上にバリバリ働くか。わたしはそこを社会に決められるんじゃなくて、自分で決めたかったんです。
大原扁理著『年収90万円でハッピーライフ』株式会社 筑摩文庫(2019年)
自分の働き方に疑問を持ったのは、この部分を読んだときが初めてでした。
なんというか、それまでは「世の中そういうもんだ」と、疑うことすらしませんでした。
ですが、欲しいお金も、仕事に対する価値観も人それぞれ違うのに、働き方だけは一律って、確かにちょっとおかしいのかなって気がします。
パートタイマーやアルバイトであれば、働く時間をある程度自分で決められますが、「正社員」となると、やはり一日8時間、週5労働が基本です (最近は少しずつ変わり始めている感じはしますが…)。
これはやはり「雇用する側にとって、その方が都合がいい」ということなのでしょう。
“わたしはそこを社会に決められるんじゃなくて、自分で決めたかったんです”
とあるように、どこまでも著者の“軸”はぶれません。
「本当は自分って、どんな働き方がしたいんだろう?」と考えてみるきっかけになりました。
おわりに
今回は、大原扁理著『年収90万円でハッピーライフ』をご紹介しました。
文庫版あとがきの中で
“願わくばこの本が、隠居になるためではなくて、最終的に自分になっていくための、何かのヒントになりますように。”
とあるように、本書は「隠居の指南書」ではなく、「理想の生活を追及していったら、ボクの場合は隠居(週休5日、月7万の生活)になった。」というものです。
そして、
「あなたはどういう生き方が幸せ?」
「自分のしたいようにしたらいいよ」
と穏やかに伝えてくれているような気がします。
興味を持っていただけたら、ぜひ実施に本書を手にとってみてください。
この記事が何かお役に立てれば嬉しいです。最後まで読んでいただいてありがとうございました。
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