今回は、松林弘治著『シン・デジタル教育 10年後、わが子がAIに勝つために必要なこと』という本をご紹介します。
あらゆる製品やサービスにデジタル技術が使われ、生活でも仕事でも、それらなしでは成り立たない今日。
ですが、日々テクノロジーの恩恵を受けていながらも、
- それら(コンピュータ)がどのような仕組みで動いているか?
- これからデジタル化がさらに進む社会で子ども達にはどのような力が必要とされているのか?
- 最近よく耳にする「ITリテラシー」とは何なのか?
などをしっかりと理解し、自分なりの考えを持った上で子育てをしている方は、あまり多くないと思います。
この作品は、ベテランITエンジニアであり父親でもある著者が、これらの疑問に、予備知識がまったくない素人にも分かるように答えてくれる本です。
- 「GIGAスクール構想」「プログラミング的思考」など、興味はあるけどよく分からない
- 「超・デジタル社会」を生きることになる子ども達に、親として何をしてあげられるのか知りたい
といった方への入門書としてお勧めです。
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学校でのデジタル教育の現状
“世界で唯一、日本の子どものパソコン使用率が低下している(Newsweek Japan・2020年1月8日)”
これは、OECD(経済協力開発機構)が3年ごとに実施している国際的な学習到達度調査「PISA」の2018年版の結果を受けたニュースです。
日本の児童・生徒のスマホ利用率は高く、日常的にSNSを使ったり、ゲームをしたりしているものの、パソコンを使って勉強したり、創作したりすることはOECD加盟国中最下位という残念な内容です。
世界では、教育にデジタル技術を積極的に取り入れようという流れがある中で、日本のデジタル教育は遅れを取っています。
2019年には「GIGAスクール構想」が打ち出され、児童生徒に一人一台の端末を整備して、積極的に学習に活用しようというプロジェクトが始まりました。
ですが、特別な授業の時に限定して使用するなど充分に活用されているとは言いがたい状況です。
ITに関して十分な知識を持った教員も少なく、教員に対するサポートもほぼない…。
こんな感じで課題が山ほどあるのが現在の日本のデジタル教育なのです。
ITリテラシーを身につける重要性、家庭での教育が格差に
学校教育がこんな具合であるため、家庭でのデジタル教育が重要になってくるわけですが、著者はまず親が相応のITリテラシーを持つ必要があるといいます。
(前略) 最終的には子どもが自主的に (動画サイトをずっと見てしまうなどの) 誘惑に打ち勝って学びに活用するようになるのが目的だとしても、その途上では大人、特に「保護者」のサポートが必要不可欠です。その際、保護者がITの専門家である必要はないにせよ、基礎的な知識、つまりリテラシーを持ったうえでサポートするのと、そうでない場合とでは、子どもが獲得するスキルやリテラシーに大きな差が生まれる可能性があります。
松林弘治著『シン・デジタル教育 10年後、わが子がAIに勝つために必要なこと』株式会社かんき出版(2021年)
リテラシーとはもともと「読み書きの能力」を指す言葉ですが、現在では「ある分野に関する知識や能力を活用する力」を意味して使われることが多いです。
つまり、ITリテラシーとは「コンピュータ機器に関するある程度の前提知識(コンピュータ・システムの仕組みや成り立ち、ソフトウェアやアプリが得意なこと・苦手なことなど)を理解して使いこなす能力のこと」です。
しかし、私たち親世代は学校で充分なデジタル教育を受けていません。
大人になってから、必要に迫られてデジタル機器を使って仕事をしていても、単に使えるだけでは「ITリテラシーがある」とは言えません。
家庭でのデジタル教育を考えるとき、まずは親自身が学び直す必要があるのだと思います。
著者は、親が “「同じ土俵に初めて共に立つ仲間同士」くらいの感覚” で子どもと一緒に楽しんで学ぶことで、結果的に子どものやる気や興味を引き出せるのではないかと述べています。
コンピュテーショナル・シンキングとは?
最近「プログラミング的思考」という言葉をよく耳にするようになりましたが、「コンピュテーショナル・シンキング」とう言葉にはあまり馴染みがないと思います。
「コンピュテーショナル・シンキング」とはコンピュータ科学者が日常的かつ無意識に使っている思考法のことです。
多くの概念を含んだ言葉ですが、本書ではその中の代表的な4つを取り上げています。
「プログラミング的思考」も「コンピュテーショナル・シンキング」の範疇にあり、これらをベースに日本独自にうまれたものだそうです。4つの概念は以下の通りです。
- 問題の抽象化
- 問題の分解
- パターン認識・一般化
- アルゴリズム的思考
それぞれについて簡単に見ていきます。
問題の抽象化
一度に注目するべき概念を減らし問題の複雑さを軽減させる。
重要な部分だけを抜き出して考えること。
問題の分解
複雑な問題を小さな単位に分割して少しずつ解決し、最後にそれらを合体させて目的を達成すること。
パターン認識・一般化
物事をよく観察してその中からパターンを見つけ、既存の解決法を当てはめること(パターン認識)。
また、パターンを他の同様の構造を持つものに適応すること(一般化)。
アルゴリズム的思考
ある問題を解決するために、より効率的な方法や手順を考えること。
これらは汎用性の高い考え方であるため、普段同じような思考法を無意識に使っている方も多いと思います。
また、小さい内から専門的な教育を受けていなくても、これらの思考法を使っててエンジニアとして活躍している方はたくさんいらっしゃるそうです。
コンピュテーショナル・シンキングを家庭で伸ばすためのアイデア
著者は、必ずしもスマホやパソコンなどのデジタル端末を使わずとも、家庭でできるいろいろな活動がコンピュテーショナル・シンキングを育むことに繋がると言います。
具体例をいくつかみていきましょう。
自宅のキッチンで料理をする
調理を始める前に手順書、いわゆるレシピを子どもに書いてもらい、料理を作るときのプログラム(手順)を整理します。
学年が大きくなると複数の料理を同時に作ることで並列処理が学べます。
調理器具が限られている中で、料理を効率よく仕上げるためには、「お肉を下茹でしている間に、別の料理に使う野菜を切って…」など段取りを最初にイメージしておかなければなりません。
これはそのままアルゴリズム的思考(問題解決の手順を考える)と言えます。
組立家具を一緒に作る
説明書がどんな手順で書かれているかを見ながら、最終的な完成系を想像した上で、実際に組立ててみます。
小さな部品が組み合わさって全体を構成していることを体験的に学ぶことができますし
「この部品がなぜここに必要なのか」
といった「全体」からみたときの「部分」の役割にも気づくことができます。
「コンピュテーショナル・シンキング」と聞くと、なんだかちょっと身構えてしまいますが、普通の生活の中でも、それを育む方法はいろいろと。
さらに、親がしっかりとその「意義」を理解できれば、単なるお手伝いに留まらず、もっと子どもに興味・関心を促すような関わりができるのではないでしょうか。
まとめ
今回は、松林弘治著『シン・デジタル教育 10年後、わが子がAIに勝つために必要なこと』をご紹介しました。
本書は初心者向けではあるものの、扱っている内容は幅広いです。
今回ご紹介した「コンピュテーショナル・シンキングを家庭で伸ばすためのアイデア」はごく一部ですし、
「世界のデジタル教育」「コンピュータの基礎知識」については、触れることができませんでした。
これから「超・デジタル社会」を生きる子どもを持つ親であれば、ぜひとも知っておきたい内容ばかりですので、興味を持っていただけた方は、実際に本書を手に取ってみてください。
この記事が何かお役に立てれば嬉しいです。最後まで読んでいただいてありがとうございました。
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