今回は、絵本『こんとあき』をご紹介します。
この絵本は、キツネのぬいぐるみ「こん」と女の子「あき」が、「さきゅうまち」にあるおばあちゃんの家まで行く道中で、様々なトラブルを乗り越えていくお話です。
ちょっぴりハラハラしながらも、一生懸命な2人が無事おばあちゃんの家に着くように願わずにはいられない、そんな作品となっています。
この記事では、内容紹介とおすすめポイント、著者である林明子さんについても書いていきます。
『こんとあき』のあらすじ
「こん」は、おばあちゃんが作ったキツネのぬいぐるみ。
「あき」のお守りを頼まれて、「さきゅうまち」からやってきました。
「こん」と「あき」は、「あき」が赤ちゃんの頃からいつも一緒。
「あき」の背が「こん」を追い越し、どんどんと大きくなっていく中、「こん」はだんだんと古くなっていきました。
そしてある日、「こん」の腕がほころびてしまいます。
おばあちゃんの家に、腕を治してもらいに「こん」と「あき」は、汽車に乗り、「さきゅうまち」へと向かいます。
そこでは思わぬ困難が待ち受けていましたが、2人で協力して乗り越えていけるのでしょうか…。
『こんとあき』のおすすめポイント
『こんとあき』のおすすめポイントを次の2点にまとめてご紹介します。
- 「こん」と「あき」の小さな冒険を応援したくなるストーリー
- リアリティの中に優しさがある絵
それぞれについて、詳しくみていきます。
「こん」と「あき」の小さな冒険を応援したくなるストーリー
「こん」は、キツネのぬいぐるみですが、まるで人間のように、歩いたり、おしゃべりしたりします。
「あき」も周りの大人達も、それを辺り前のように受け入れます。
ファンタジーであることは確かなのですが、「こん」の存在が、“違和感”として際立つのではなく、現実味のある絵の中でも不思議となじんでいるところが、おもしろいです。
絵本の冒頭では「あき」が赤ちゃんの頃から、成長する過程でずっと「こん」と一緒だった様子が描かれています。
小さな「あき」が汽車に乗って、遠く離れた「さきゅうまち」に行くというのは、かなり勇気のいる行動のはずです。
それでも、今までずっと一緒だった「こん」がそばにいてくれるなら、「きっと大丈夫」と思えたのかなと想像します。
実際に、「こん」はまるでお兄さんのように「あき」の不安をやわらげようとします。
(P8)「この きしゃに のるんだ。あきちゃん、 ぼくに ついてきて」
(P31)「だいじょうぶ、 だいじょうぶ」
「本当に、大丈夫なの? 」という場面でも気丈に振舞う「こん」はとても健気です。
お話では、汽車が停車している間にお弁当を買いに行った「こん」が戻ってこないまま発車してしまったり、さきゅうで「こん」が犬に連れさられてしまったり…と、様々なトラブルに見舞われます。
子ども達も読みながら、
「電車行っちゃったよ…」
「大丈夫かな…」
とハラハラしている様子でしたが、強い信頼関係で結ばれた「こん」と「あき」なら、きっと乗り越えていけるだろう、と期待しながら読み進められるストーリーです。
リアリティの中に優しさがある「絵」
作者である林明子さんの描かれる「絵」は、ほっこりして可愛らしさがありながらも、細かなところも現実に沿って描かれています。
『こんとあき』を描く際にも、信越本線や山陰線などに乗って取材をしたそうです。
駅員さんの切符を切る道具(検閲ばさみ)を小指に引っかける独特な持ち方も、この時に目にして、そのまま絵本に描いています。
実物がないと描けないという林さんは、「こん」を描く際にも型紙から起こして手作りして、見ながら描いたそうです。
絵本の裏表紙には、「こん」の型紙がのっています。
ぬいぐるみである「こん」は、基本的に表情を大きく変えないし、ぬいぐるみであるがゆえに、体を動かせる部分も限られているはずなのに、まるで生きているかのような温もりがあります。
実物になるべく忠実に描きながらも、どこか現実を切り取っただけでない温かさがあるのも、林さんの作品ならではだと思います。
一番好きなシーンは、おばあちゃんのお家で「こん」が、お風呂に入るところ。
お風呂を嫌がる「こん」を、半ば無理やりおばあちゃんが湯船に入れてしまいます。
湯船から出ると、「こん」の体が本来の色に戻ったのか、少しきれいになっています。
「こんちゃん、けっこう汚れてたのね…」
と、この場面で気づきます。
こころなしか「こん」も得意げにニヤッとしているようです。
基本情報
- 作者 :林明子
- 対象年齢:読んであげるなら 4才から 自分で読むなら 小学低学年から
- ページ数:40頁
- 初版出版:1989年6月30日
- 出版社 :福音館書店
作者 林明子さんについて
林明子さんは1946年生まれ。
1937年、「かがくのとも」の『かみひこうき』で絵本作家としてデビューして以来、実に50年以上、みなから愛される絵本を描き続けてきました。
我が家の本棚にも『はじめてのおつかい』『おつきさまこんばんは』『おててがでたよ』『はっぱのおうち』など、林さんの作品がたくさんあります。
みなさんも、きっと一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
先にも書きましたが、林さんの作品の特長は、リアリティがありながらも、温かみや優しさが感じられる絵だと思います。
登場人物の「気持ち」が、その表情や仕草からくみ取れるように繊細に描かれているので、子ども達もスッとお話の世界に入っていけます。
今回、ご紹介した『こんとあき』でも、汽車が停止している間にお弁当を買いにいった「こん」を、まだかまだか…と、待っている「あき」は、電車の窓に頬をペタッとくっつけて「こん」の様子をうかがっています。
大人はぜったいやらないけれど、
「小さい子って、こういうことするよね」
と思わず笑ってしまいました。
この辺りの描写も、子どものことをよく観察しているからこそ、描けるものなのかなと思います。
おわりに
今回は、絵本『こんとあき』をご紹介しました。
少しハラハラしながらも、読んだ後は、温かで豊かな気持ちになる素敵な絵本です。
やや文章が長めなので、対象年齢は4才からとなっていますが、絵をみただけでもなんとなくストーリーが予測できるので、我が家の子ども達は3才くらいから楽しめていました。
ぜひ本書を実際に手にとって、お子さんと一緒に読んでみてください。
この記事が何かお役に立てれば嬉しいです。最後まで読んでいただいてありがとうございました。
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